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判例

平成29年(行ヒ)第44号

障害年金請求事件
最高裁 平成29年10月17日 第三小法廷判決

           主     文 

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

           理     由 

1 上告人は,厚生年金保険の被保険者であった昭和45年6月,交通事故により左下腿を切断する傷害を負い,平成23年6月,厚生年金保険法47条(昭和60年法律第34号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく障害年金の裁定及びその支給をそれぞれ請求したところ,厚生労働大臣は,平成23年8月,上告人に対し,受給権を取得した年月を昭和45年6月とする障害年金の裁定をする一方,厚生年金保険法36条(平成2年2月1日より前については平成元年法律第86号による改正前のもの。以下同じ。)所定の支払期から5年を経過した障害年金についてはその支給を受ける権利が時効により消滅しているとして支給しなかった。本件は,上告人が,上記権利の消滅時効は上記裁定の時から進行すると主張して,被上告人に対し,支給されなかった上記障害年金の支払を求める事案である。
2 厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権(支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利)は,5年間これを行わないときは時効により消滅し(厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律附則4条,会計法30条),その時効は,権利を行使することができる時から進行する(会計法31条2項,民法166条1項)ところ,上記支分権は,厚生年金保険法36条所定の支払期の到来により発生するものの,受給権者は,当該障害年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることができない。 しかしながら,障害年金を受ける権利の発生要件やその支給時期,金額等については,厚生年金保険法に明確な規定が設けられており,裁定は,受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存否等を公権的に確認するものにすぎないのであって(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照),受給権者は,裁定の請求をすることにより,同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて障害年金の支給を受けられることとなるのであるから,裁定を受けていないことは,上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。 したがって,上記支分権の消滅時効は,当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行するものと解するのが相当である。
3 以上と同旨の見解に立って,上告人の前記傷害に係る障害年金のうち厚生年金保険法36条所定の支払期から5年を経過したものにつき,時効により消滅したものとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

(以上最高裁判所ホームページ  http://www.courts.go.jp/saikosai/
を加工して作成)

能力不足を理由とする解雇(労働判例百選 第9版 72事件)
東京高裁 平成25年4月24日判決言渡
平成24年(ネ)第6853号 地位確認等請求控訴事件

            主        文  

本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

            事 実 及 び 理 由             

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
次のように,補正し,控訴人の当審における補充主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由の第2に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正
(1) 原判決2頁6行目の次に行を改めて次のように加える。
「 原審は,被控訴人の請求をいずれも認容した。これに対し,控訴人が控訴した。」
(2) 原判決4頁18行目の「が出されるとともに,」を次のように改める。 「が出された。さらに,次の評価期間における目標として,被控訴人が,国土交通省の人脈を拡げ,そのコネクションから「密告者」の協力を得て独自ニュースを入手すること,匿名での取材しか受け付けないため,控訴人記者の取材を受け付けないAから,独自ニュースの収集を試みるつもりである旨コメントしたのに対し,TLから「匿名という条件でしか使うことのできない情報源の開拓は,目指すべきではない。匿名情報の使用は最後の手段であり,目標ではない。重ねて言うが,Bさんは記事を執筆する場合,公表を前提とした(オフレコでない)取材や公表された情報の使用に注力する必要がある。」等のコメントが出された。そして,TLから」
2 控訴人の当審における補充主張
(1) 控訴人は,世界各地に拠点を設けて活動する国際企業であるところ,国際企業が世界各地で有能な人材を採用するためには,能力に応じた処遇をすることと同時に,必要な能力がないと判断された場合には,すみやかに,その労働者を辞めさせることができることが必要である。このように,海外から進出して,必要な能力を有する者をそのポジションごとに随時採用していなければならない控訴人のような国際企業と,新卒の学生を採用して,ゼロから技術者として育て上げて,配置転換をしながら定年まで雇用することを原則とする日本企業とを同じ基準で扱うのは,正義に反する。したがって,「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」というような条文の文言解釈においては,その労働者が採用された経緯やその企業の雇用の実態が反映されなければならない。 控訴人主張に係る解雇事由を検討するに当たっては,このような雇用文化の多様性という観点が不可欠である。
(2) 本件解雇の正当性を判断するに当たっては,控訴人主張に係る各解雇事由を個別に検討するのではなく,これらを総合的に検討して,雇用契約の継続を期待できるか否かを判断すべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は,次のように,補正し,控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の事実及び理由の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の補正
ア 原判決22頁16行目及び18行目の各「勤務能力ないし適格性」をいずれも「職務能力」に改める。
イ 原判決24頁15行目から16行目までの「認められない上,」を次のように改める。
「認められない。そうすると,控訴人が被控訴人に対して行動予定に関する報告を求めたのも,上記のアクションプラン及びPIPにおいて,被控訴人の職務能力を把握するためにされたものにすぎないことがうかがわれるのであって,控訴人において,一般的に,行動予定に関する報告が記者の服務規律として重要であるとされていたとまでいうことはできない。
かえって,日本語スピードチームにおいては,AGENDAと呼ばれるスケジュール管理システムがあり,同チームのメンバーが共有フォルダに各自の予定を書き込めば,上司であるCを含めて誰でもこれを閲覧することができ,被控訴人も予定を書き込んでいたことが認められる(証人C,被控訴人本人)。なお,この点について,証人Cは,被控訴人がすべての予定を書き込んでいなかった旨の供述をするが,その供述内容は極めて曖昧である上,被控訴人からの要望があったにもかかわらず,控訴人が上記AGENDAに関する証拠を提出していないことに照らすと,これを信用することはできない。さらに,」
ウ 原判決25頁5行目の「認められるが,」を次のように改める。
「認められる。さらに,平成18年の勤務評価における匿名という条件でしか使うことのできない情報源の開拓に関するTLと被控訴人との意見の相違(前記第2の1の(2)のウ)や,GAチームに対する被控訴人の評価(被控訴人の陳述書(甲22)には,同チームが,英語ニュース担当者の干渉を受けずに日本人記者が日本人記者の価値観とニュース判断で,自由に前向きに取材できるチームであったと記載する部分がある。)等からすれば,被控訴人は,控訴人における取材方法が一般的な日本の報道機関のそれと異なることに不満を抱いていたこともうかがわれるところである。
しかし,」
エ 原判決26頁21行目の「スピードが遅さ」を「スピードの遅さ」に改める。
オ 原判決27頁24行目の「原告以外の14名の」から原判決28頁1行目の「評価することはできず」までを次のように改める。
「被控訴人からの要望があったにもかかわらず,控訴人が被控訴人以外の14名の記者の氏名を明らかにしないため,これらの記者の比較対象としての適格性,計上した記事本数の正確性,選定記事の妥当性等について被控訴人が反証し得ないという問題があることから,同書証を信用することはできず」
カ 原判決28頁3行目末尾の次に次のように加える。
「かえって,甲46号証から48号証(被控訴人,D記者及びE記者が平成21年9月から10月までの間に作成した全記事,独自記事等の各本数を記載した表)によれば,被控訴人の執筆した記事の本数が同僚と遜色がないことがうかがわれる。」
(2) 控訴人の当審における補充主張に対する判断
ア 控訴人は,控訴人のような国際企業といわゆる一般的な日本企業との雇用形態には差異があることから,控訴人主張に係る解雇事由の検討に当たっては,雇用文化の多様性という観点が不可欠であるなどと主張する。
なるほど,我が国において,国際企業がいかなる人事制度を採用しても,法令に反しない限り自由であり,その人事制度がいわゆる一般的な日本企業と異なることが,労働契約法16条に規定する解雇権の濫用の判断に影響しないと直ちに言い切ることもできない。
しかし,そもそも,控訴人は,控訴人の人事制度,すなわち,その労働者の募集及び採用,配置,昇進,降格及び教育訓練,賃金制度,退職の勧奨及び定年等がいわゆる一般的な日本企業のそれと異なることについて,何ら具体的に主張していないし,被控訴人が採用された経緯,すなわち,被控訴人が採用された際,控訴人の人事制度についてどのような説明がされ,それがいわゆる一般的な日本企業の場合とどのように異なっていたのか等についても,何ら具体的に主張していない。かえって,控訴人において,労働者の採用選考上控訴人の特色あるビジネスモデル等に応じた格別の基準を設定したりしたことはないと認められることは,先に引用した原判決の事実及び理由の第3の2に記載のとおりである。結局のところ,控訴人が 主張する雇用文化の多様性は,単なる一般論にすぎず,個別具体的な事件における解雇事由の判断に影響を与えるようなものではない。
したがって,控訴人の上記主張は,失当であるといわざるを得ず,先に引用した原判決の事実及び理由の第3の2で判示したとおり,被控訴人と控訴人との間の労働契約上,社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められると想定される職務能力を量的に超え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められないことを踏まえ,控訴人主張に係る各解雇事由について検討すれば足りるものと解するのが相当である。
イ 控訴人は,控訴人主張に係る各解雇事由を個別に検討するのではなく,これらを総合的に検討して,雇用契約の継続を期待できるか否かを判断すべきであると主張する。
しかし,先に引用した原判決の事実及び理由の第3の1から4までで判示したところによれば,本件解雇は,控訴人主張に係る各解雇事由を個別に検討しても,客観的合理性があるとはいえないばかりか,これらを総合的に検討しても,客観的合理性があるとはいえないと解するのが相当である。確かに,控訴人主張に係る各解雇事由,すなわち,所在不明,協力関係不構築,執筆スピードの遅さ,記事本数の少なさ及び記事内容の質の低さのそれぞれについて,控訴人の使用者としての主観的評価として,被控訴人の職務能力が不十分であるとしていたことは認められる。
しかし,被控訴人は,アクションプラン及び3回に及ぶPIPにおいて具体的な数値によって設定された課題をほぼ達成している上,先に引用した原判決の事実及び理由の第3の3の(1)及び4の(2)で判示したように,控訴人が,客観的に被控訴人に求められる職務能力を立証するために提出した証拠は適切なものであったとは言い難いこと等からすれば,控訴人による主観的評価以上に,客観的に認められる被控訴人に求められている職務能力に照らして,被控訴人の職務能力の低下が,被控訴人と控訴人との間の労働契約を継続することができないほどに重大なものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人の上記主張を踏まえて検討しても,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠くものとして無効である。
2 以上によると,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(以上最高裁判所ホームページ  http://www.courts.go.jp/saikosai/
を加工して作成)

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